嘘だらけの日中近現代史 倉山満
本屋で目についたのでちょっと読んでみて,少し立ち読みしてから内容的に面白そうだったので買ってみた.
最近,尖閣問題やPM2.5などで「中国ってナンなの?」って思っている人にはお勧めである.
読んでみての感想は
「ちょ,ちょっと待って!私なんかねえ,宮城谷昌光の古代中国小説はほとんど全部読んでるし,他の作者の三国志や隋唐演義なども読んでるし,中国に一ヶ月旅行に行ったこともあるし,中国人の友人もいる.そういうことも踏まえて言えることは...いい中国人もいる,悪い中国人もいる.」
という感じだ.(まあ人の話ではないんだが)
...という話はおいておいて...
正直,この著者が言っていることはかなり正しいと思う.
「中国史は繰り返す.」(p.15)として,
1.新王朝成立
↓
2.功臣の粛清
↓
3.対外侵略戦争
↓
4.漢字の一斉改変と改竄歴史書の作成
↓
5.閨閥,宦官,官僚など皇帝側近の跳梁
↓
6.秘密結社の乱立と農民反乱の全国化
↓
7.地方軍閥の中央侵入
↓
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とあるが,全くその通りである.よく飽きもせずに同じことを続けられるなあと感心もするが,本当にその通りである.
「建前は儒学,本音は韓非子」(P.33)
政治の頂点に立つ人間はこのパターンが多いようにも確かに思える.
私などは老子が好きだが,別の思想を持った人間が一時期頂点に立つことも確かにあり,感動的な場合も多くあるが,全体としてみればこの意見は間違っていないと思う.
一言で言うと「無茶苦茶やるなあ.」と思うことがよくあるのである.
子供を又産めばいいと馬車から捨てたり,自分の恋敵の手足を全部切り刻んで肥溜めに入れたり...
自分が巻き込まれないで傍から見ていると興味深い.
内部では滅茶苦茶やっている割には体外的には結構弱くてかわいそうなところもあり,中原(中華,中心部分)はいつも中国人の呼ぶところの蛮族(東夷・南蛮・西戎・北狄)に攻められている.(それの象徴が万里の長城である.)
歴史が日本と違ってスケールが大きく,ダイナミックに国が変わってすごいなと本を読むたびにいつも思っていた.
中国4千年っていうけど漢民族の歴史はそれほどない.中国の歴史を知らない人にはこの本は「えー,そうなの?」と思うことが多く,かなり面白い本だと思う.
ちょっとページが見つけられないのだが,「中国人は個人主義」と書かれているところが確かあったのだが,これもまさにその通りだと思う.
関西は「電車に乗るときに列を作って並ばない」というのは有名な話だが,私が中国を旅行した時は関西人であった私もびっくりするほどの「自分勝手」ぶりにかなり笑わせてもらった.
何しろ,バスに乗るとき必ず「押しくらまんじゅう」をするのである.5分ぐらい発車しないことなんてざらだった.出入り口がひとつなのに我先に乗ろうとするので,降りようとする人が降りれなくて押し合っているのである.さすがの大阪でもこんな光景はあまり見たことがない.
大阪を上回る超個人主義である.また「せっかちさ」も大阪人も敵わないほどのすごさである.私もかなりのせっかちであるが,それでも笑ってしまうほどのせっかちで中国旅行は人間観察しているだけでもかなり面白かった.
傍から見ている分には面白いんだが,当事者になるとPM2.5とか全然笑えない話になってしまう.基本的に自分がよければよいと思っているのでこういう問題はなかなか解決に時間がかかりそうだ.(さすがにいい加減,自分もよくなくなってきていると思うのだが.)
話を元に戻す.
この本は「近現代史」ということでもっと現代に近い時代の話が多いが,古代の話も踏まえた上で読むとさらに面白い.
とにかく,実際の実力よりも強く見せてきた歴史がずっとあり,実際には攻められると簡単に占領されてしまうという国なのであるが,今もなんか同じ状況になっているように見えて,まさに「歴史は繰り返す」だなあと思ってみている.
中国のことを知らない人は是非,一読をお勧めする.
ただ,中国人全員がこの本に書いてあるようにひどいわけではなく,20年ほど前に旅行行った時は基本的に優しい人たちであったことも書いておく.
道を聞けば丁寧に教えてくれるし,日本人と分かれば日本語で親しげに話しかけてくるご老人もいた.
確かに商魂たくましい人達もいたが,インドに比べればかわいいレベルだった.
個人個人と国の政治は違うということなのだろう.
感動的な中国古代の話を読みたい方には前に書いた「沙中の回廊」や「晏子」をお勧めする.
何でも多面的に見る癖をつけておくととても良いと思う...