生き心地の良い町 岡檀

最終更新日: 公開日: 2013年10月

最初,図書館で借りたのだが,とても良い本だと思い,改めて購入した.

まず,一言,
海部町に引越したい
と思った.(今は合併していて海陽町の一部となっている.)

長生きすればよいというものでもないが,生きているからには快適に生きたいと思うのは普通の願望だろう.

研究結果を本にしたものだが,調査や考えの流れをそのまま書いているので読み物としても非常に面白い.
データで分析するだけではなく,現地にいってヒアリング(インタビュー)で調査するというのは商品を企画する際にも有効なことで,こういう手法は何か問題を解決する際にも参考になる.
長生きする町の特徴が分かるだけでなく,調査手法というメタなことまで一緒に分かるのでよい本だと思う.

さて,本題に戻る.

自殺予防因子

  • いろんな人がいてもよい,いろんな人がいたほうがよい
    ここでは人のことを気にしない海部町の人々のことが書かれている.赤い羽根募金や老人クラブのことが書かれているが,こういう人たちが主流をなしているというのはとても良い.「誰に投票するかを人に強制したら野暮なことやといわれる.」都会では人々は自分の思う人に投票していて,地方では何らかの団体の意図にそった投票がなされていると勝手に思っていたのだが,そうでもない地方もあるのだ.
  • 人物本位主義をつらぬく
    朋輩組の祭りでの若衆と子どもたちの会話が素晴らしい.本当の教育というのはこういうものだ.
  • どうせ自分なんて,と考えない
    要は人とかかわることを迷惑をかけると思わないで生きていく気持ちが強いということだと思った.
  • 「病」は市に出せ
    「あんた,うつになっとんとちがうん.」と気軽に隣人に言える関係.これはすごいことだと思う.
  • ゆるやかにつながる
    その割りに海部町は日常のつきあいに関しては,立ち話や挨拶程度のつきあいがほとんどで日常的に生活面で協力というのはほとんどない.「人間関係が固定していない」には重要なことが書かれている.複数の開かれたコミュニティが存在している意義についてだ.地方などで閉じた単一のコミュニティしかないとそこでの人間関係が非常に大事なものになってしまうので,先ほどの迷惑をかけるとか,他人の目を気にするとかそういうことを大事にせざるを得なくなってしまう.強制加入でない朋輩組や老人クラブは多様なコミュニティを形成するのに役立っているのだろう.最初の方で島が長寿であることが書かれていたが,コミュニティはどうなっているのか気になった.

生き心地良さを求めたらこんな町になった

  • 多様性重視がもたらすもの
    ここで「スイッチャー」という役割について書かれているが面白い.均一なコミュニティでは議論が先鋭化されやすいが,そこにあまのじゃく的な考え方の人間がいると急進的な方向に走るのを避けることが出来る.まあ,正直「空気読めない」とか言われるのだが,そこがいいところでもあるようだ.だいたい「満場一致」ほど怪しいものはないと私は思っている.
  • 関心と監視の違い
    人に関心はあるけど,監視はしない.これが理想的なコミュニティの姿ではないかと思う.監視というとネガティブなイメージだが,関心だとポジティブである.なかなか面白い.
  • やり直しのきく生き方
    飽きっぽい性格の良さだが,やはり一つのことに固執しないことだろう.一度目は許すという考え方もそれに繋がっている.
  • 弱音を吐かせるリスク管理術
    人間関係が膠着していないので弱音を吐いてもそれほどリスクを負うことにならない.
  • 人間の性(さが)と業(ごう)を知る
    海部町の人は他地域の人に比べ,世事に通じている.機を見るに敏である.合理的に判断する.損得勘定が早い.頃合いを知っていて,深入りしない.このほかに,愛嬌がある.これはバランスが取れているなと思った.

結びにかえて

最後の最後にこの節がある.ここまでの話も非常に面白く,納得感があったのだが,ここに書いてあることに強く賛同したので,あえて言及させてもらう.

自殺をした人がいると遺族が責められることはよくある話だと思う.しかし,責めることに何の意味があるのだ?
自殺した人を責める必要もない.
詳しくは本を読んで欲しい.

最後の文章は特に良かった.
おすすめの本である.

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