呉漢 宮城谷昌光

この本を読んで思ったのはやはり私は宮城谷作品が好きだということ.

呉漢 宮城谷昌光

どういうタイプの本が好きなのか?いつも自問自答しつつ,読む本を探している.

思い返すと,本としては晏子が最も好きな作品なのだが,これに近いと思う.

そして,それが何でなのか?を考えて気づいたのは,人生を考えさせられるという点においてだった.
主人公の呉漢は当初,寡黙な青年であり,「わからないことを心にとどめ,時間をかけてみずから理解する者」であった.
潘臨は「わからないことをすぐに問う者を軽んずることにしています」と興味深いことを呉漢にいう.

最初に近い「安衆候の乱」の章で呉漢が
「話半分にきく,ということを知らなけりゃ,生涯,だまされつづけるぜ」
といわれるところは示唆に富む.

祇登という師匠のような人物が現れ,この人によって呉漢は内にしかなかった関心を外に向けるようになり,世界が広がっていく.

人間関係に対する考え方が非常に参考になる.

このような作品を書ける宮城谷昌光さんはやはり凄いと再認識した.
amazon では星の低い人もいるが,私としてはかなり満足の行った作品だった.

呉漢 宮城谷昌光

楚漢名臣列伝 宮城谷昌光

久々に宮城谷昌光の中国古代ものが出ていたので迷わず買ってみた.

楚漢名臣列伝 宮城谷昌光
楚漢名臣列伝 宮城谷昌光

項羽と劉邦」はかなり昔に司馬遼太郎のものを読んでいたのだが,なんというか,「国盗り物語」などと比べるとそれほど面白いという印象はなかった.

この本は名臣列伝ということで,楚漢の家臣を一人ひとり取り上げて小説にしているので,より深く楽しめた.
項羽と劉邦という非常に対照的なこの二人は「歴史に学ぶ」という意味では大変面白い人たちであるが,家臣からみた二人が描かれているのでとても興味深い.

「張良」「范増」「章邯」「陳余」「蕭何」「田横」「夏侯嬰」「曹参」「陳平」「周勃」が選ばれているが,この中で私のお勧めは「夏侯嬰」と「陳平」である.
「田横」に関しては同じ宮城谷の「香乱記」をお勧めする.
こちらはまさに名作「晏子」などに代表される宮城谷小説の王道をいっていると思う.

さて,夏侯嬰は後の三国時代の曹操の右腕とも言われる夏侯惇の先祖らしいが,義侠の人として有名であった.そのエピソードが語られているが,劉邦との傷害事件の話,馬車から捨てられる劉邦の子供を救った話,楚の臣であった季布を助けた話など本物はこうなのだと感心させられた.その後の呂氏の粛清の網にかからなかったのもうなずける.

もう一人の陳平に関しては処世の術が凄まじい.爽快だ.もともと,項羽の配下であったが恨まれると劉邦の陣営に飛び込み,採用されることになる.その時の劉邦との掛け合いも秀逸だ.陳平を紹介した魏無知という人も素晴らしい.陳平は最終的には呂氏一族を滅亡させるが,自然の流れに任されつつも,その立場で出来ることに全力を注げば道は開けるという見本のような人生であり,歴史に学ぶ醍醐味が味わえる

楚漢名臣列伝 宮城谷昌光
楚漢名臣列伝 宮城谷昌光

沙中の回廊 宮城谷昌光

もう,8年も前に買った本だが,久しぶりに読んだ.
晋の名君,重耳の一家来であった士会が正卿になって引退するまでを書いている.
(正卿とはその国の最高指導者のことである.)


沙中の回廊〈上〉 宮城谷昌光


沙中の回廊〈下〉 宮城谷昌光

中国史上では私はこの本の主人公「士会」の生き方に一番,共感を持っている.

正卿である趙盾の私命で(正式な手続きを経ずに)秦に公子雍を迎えに行かされる.
しかし,趙盾はその後,幼い太子を立てることに変更し,公子雍を晋に連れてきた秦を攻撃するという無礼極まりないことをする.
それで士会は秦君や公子雍を裏切ることになってしまったことに対する詫びと,趙盾に対し,最大限の批判をするため,秦に亡命することになる.

この進退の潔さが素晴らしい.
秦の康公とのやり取りも君主と臣下の模範のような間柄で,さながら劉備と孔明のように思えた.

郤缺の策により,晋に戻される場面も無理をしない士会の態度がすがすがしい.
秦の康公の士会の家族を返した態度も立派なものである.

楚との戦いで負け戦になった時に,殿を行って見事な退陣を果たした時はさながら小牧長久手の戦いの「堀秀政」のようで,まさに戦巧者というにふさわしい.

ちなみに,日本では脚光をあまり浴びていない堀秀政という武将であるが,「名人久太郎」といわれたことからも分かるように何でもそつなくこなし,忠義を重んじる性格という部分も士会と似ている.
この人を主題にした歴史小説を知らないが非常に興味深い人物である.
病気で若く亡くなったのが惜しまれる.

もともとは武人としての武術の達人として書かれていて,文公(重耳)の車右になったりもしたが,だんだん戦術にも頭角を現し,また,秦への亡命など政治的なセンスも一流となっていった.

最後の方で「士会」が正卿になった際には,「とたんに晋国にいた盗賊が逃げ出して秦へ奔った」とある.
こんな政治家がいるものか?
士会はこの後,法を整備していく.

進退には無理を伴わず,的確な判断が出来,文武両道でしかも頂点を極めている.
まさに,人間こうありたいという鑑のような人である.


沙中の回廊〈上〉 宮城谷昌光


沙中の回廊〈下〉 宮城谷昌光