逆システム学 金子勝 児玉龍彦

書評
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児玉龍彦さんの演説に非常に納得したので,早速,図書館で予約を入れて読んでみた.


逆システム学 市場と生命のしくみを解き明かす 金子勝 児玉龍彦

今は品切れ状態となっているが,結論から言うと,この本も面白い.
ドーキンスの利己的な遺伝子の時に「生物は遺伝子の乗り物」ということを言っていて,話は面白かったのだが,なにか納得のいかない部分もあった.
それは「環境に適応できなかったものは淘汰され,環境に適応できたものだけが生き残る」という根幹の部分だった.

以下,引用.
ネオダーウィニズムは進化の過程を一つの遺伝子と他の対立遺伝子の争いと考えたが,実際にはそうではなく,ある生物システムが広い適応の幅を持つようにゲノムが変化していくのが進化の中心になっているのだ.
直観的にこちらの方が的を射ていると思った.

この本の主張は
「要素還元論でもなく,全体論でもない個と全体と結ぶ中間領域にある制度,調節制御に注目する」
ということである.

以下,抜粋.

「大腸菌のゲノムではほとんどが要素である蛋白の配列であったのに対し,人間のDNA配列のうち要素である蛋白の配列は2%以下であり,98%は調節制御にかかわる配列である」

「DNAが作るRNAが作る蛋白.
ここで遺伝子は生命の設計図,RNAはその注文書,蛋白は製品.」

「生物を取り囲む環境は絶えず変化する.暑い時,寒い時,水分の足りない時,過剰な時,適応にかかわる同じような蛋白を違う環境で誘導して使うほうが効率はよい.
遺伝子の大半で調節配列が占め,たくさんの調節制御のシステムが出来てくると温度変化に適応できる範囲がどんどん広がる.温度の大きな違いに対応できれば進化といえる.」

以上は生物に関する部分であるが,これを経済にも当てはめている.

多重のフィードバックをかけるのが重要で,フィードフォワードのやり方がまずいというのはよく分かる.

カロリー制限すると「長寿遺伝子が活性化する」というのは聞いたことがあるが,カロリー制限をすれば,誰でも発現して長生きする.(それで生きていて楽しいかどうかは別にして)

活性化するしないは個体にゆだねられているわけである.
もし,利己的な遺伝子の説が完全に正しいとするなら,長生きする遺伝子を持つ種しか生き残れなさそうなものであるが,そうなっていない.
カロリー制限することにより,ストレスがたまって早死にする個体もあるだろう.
環境はそう単純に割り切れるものではないということなのではないだろうか?

放射線に関しても,気にすることは必要だが,気にしすぎるとそっちも体に悪そうで,バランスということが重要だろう.
ただし,一人の人にとって問題なのはフィードバックをかけられないことである.結果によっては,もう死んでいるだろうから.

フィードバックをかけられない以上,児玉先生のいうように食べ物は全品検査して,できるだけ食べないようにするしかない.
さらに納得した.

原発事故以来,東の人間は自らの人生と向き合わされているような気がする.


逆システム学 市場と生命のしくみを解き明かす 金子勝 児玉龍彦