なぜボランチはムダなパスを出すのか? 北健一郎

最終更新日: 公開日: 2012年01月

この本は一言でいってかなり面白い.

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(ちなみに2012/1/25現在売れているのか,アマゾンや楽天では売り切れだ.上のリンクでは買える店が残っている.)

ボランチが出す見せ掛けのパスにおびき寄せられて,相手の陣形が崩れたところに本当に必要なパスをするという高度なテクニックに焦点を当てた本である.

ガンバの遠藤とバルセロナのシャビを中心に話は進められていく.
もともと遠藤のプレースタイルが好きな私としては面白いのは当たり前なのだが,「ボランチって何?」と思っている人は一度読んでみると良い.
バルサはもともと個々の能力が高いので,対戦相手は守りを固めて引きこもる傾向にあると思うが,そういう場合にどう崩せばよいのかという一つの答えが現在のバルサのサッカースタイルなのだろう.
パスサッカーと言われているが,実態は崩しのサッカーなのではないだろうかと思っている.
日本もアジアでのワールドカップ予選では相手チームによっては引きこもられる傾向にあると思うが,そういうときに遠藤のような考え方を持った選手が多数いると余裕を持って戦えるようになるのではないか.

要はわざと隙を作って,そこに誘い込むという昔のいくさでもよく使われた手をサッカーに応用するということだ.

城や弱い相手を完全に囲ってしまうと死ぬ気になって戦うのでこちらの損害も大きくなる.
そこで,わざと一方だけ開けてやると,逃げられると思って逃げ始めるがそれをたたくというやり方である.

バルサなどはバックパスでキーパーも普通に使ってフィールドプレーヤーのようになっている場面がよくあるが,あれも相手の陣形をできるだけ引き伸ばすための手段と思えば納得できる.

わざと隙をつくるという高度な技をいろんなチームが使い始めれば,サッカーはまだまだ面白くなると感じられる本だった.
もちろん,トラップやパスの精度,それから体を入れてのキープ力が重要なので基礎練習はとても重要なのは言うまでもない.

ただ,昔のいくさでも最初は名乗りをあげて一騎打ちを始めてから戦ったのが,兵法を使った集団戦術に移行してきたようにサッカーもそろそろ個人の力量でなく,集団戦術を使った戦い方を始めても良いのではないだろうか.
名づけて一騎打ちから集団戦術ならぬ「個人技から組織戦術へ」ということだろうか.

ここで,組織で戦うというのはフォーメーションをどうこうするとか,パス主体の戦い方という意味ではなく,頭を使ったさながら兵法を応用した一人一人が軍師になったような戦い方を言っている.
まあ,古来から軍師ではなくても戦場で臨機応変に対応できた名将が多数いたと思うがそういう名将が求められているのだろう.
現代サッカーでのボランチというのはある意味,名将である必要があるだろう.

と,本にはそんなこと全く書いていないのだが,そういうことを考えてしまう良書であった.

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